福島地方裁判所若松支部 事件番号不詳 判決
右山口茂樹に対する不法監禁、強要、竹谷滋、騎西辰雄、八木正一に対する住居侵入、不法監禁、強要、滝谷〓一に対する住居侵入、脅迫、山口〓、石川正に対する住居侵入、強要、高橋精一、伊藤治美に対する不法監禁、強要被告事件につき、当裁判所は副検事松野内高市出席のもとに審理して、次の通り判決する。
主文
被告人山口茂樹、同竹谷滋を各懲役壱年に、被告人騎西辰雄、同八木正一を各懲役八月に、被告人滝谷〓一、同山口〓、同石川正、同高橋精一、同伊藤治美を各懲役六月に処する。
被告人滝谷〓一、同山口〓、同石川正、同高橋精一、同伊藤治美に対し、この裁判が確定した日より参年間いづれも右刑の執行を猶予する。
訴訟費用中、証人柴田時治、同角田栄一、同鈴木勇三、同中野明、同二瓶金六、同福原一二に支給した分は、被告人高橋精一、同伊藤治美の連帶負担とし、証人星俊美、同森高武雄、同菊地澄雄、同花泉実、同山口勉、同加藤一太郞、同小島寅喜、同松本富夫、同福原勝秋に支給した分は被告人山口茂樹、同竹谷滋、同騎西辰雄、同八木正一、同滝谷〓一、同山口〓、同石川正の連帶負担とし、その余は被告人等の連帯負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人等はいづれも福島県河沼郡日橋村大字広田所在の、三菱製鋼株式会社広田工場(以下単に広田工場と称す)の労務者で、被告人山口茂樹は、全日本金属労働組合福島支部に属する労働組合三菱製鋼広田分会(以下単に組合と称す)会長、被告人竹谷滋は組合書記長、被告人騎西辰雄、同八木正一は組合執行委員として、いづれも組合の指導的地位にあつた者、被告人滝谷〓一、同山口〓、同石川正は組合員であり、被告人高橋精一、同伊藤治美は自由労務者の取扱を受け、広田工場に常時雇われ働いていた労務者約三十数名を以て組織した、自由労務者組合の組合員であつたが、昭和二十四年六月広田製鋼所においては、経営難を理由に、本社側と交渉の上、従業員を解雇する計画を進めてきたのに対し、組合は右の事実を探知し、職場大会を開き、馘首反対完全雇傭を要求すべく一定し、その貫徹を期し、同月二十日頃より各種鬪争態勢を整え来り、自由労務者組合は昭和二十三年七月地方労働委員会の幹旋により、広田工場との間に覚書を交換し、自由労務者として就業させ、一般従業員に対する平均賃金の七割を支給すべき旨の契約があつたが同組合においても前記広田製鋼所の解雇計画を知り、会社側において従業員の解雇をなすにおいては一般従業員に先んじ、自由労務者組合員を事事実上解雇するであろうとこれを患い、昭和二十四年六月二十四日正午頃、被告人高橋精一、同伊藤治美は自由労務者三十余名とともに、広田製鋼所所長室に押寄せ、所長高場市太郞に対し、馘首反対、完全雇傭並に一般従業員と同樣の賃金を支払うよう待遇改善を要求中、そこに来合せた広田製鋼所総務部長上住粂雄が、右自由労務者側の要求に対し、思い違いで、前記覚書通り実行する旨言明し、被告人高橋精一より念を押されて、右言明を取消すに至り、被告人高橋精一等いわゆる自由労務者は、上住に対し、覚書通り実行するとの言明は失言であつた旨書面に認めるよう要求し、同人においてこれを拒絶するや、所長高場に対し、右同様の要求をなし、同人等に対し「覚書通り致します私の言うことはちよいちよい失言しますから当になりません」と記載した新聞紙に判を押せと迫り、同人において応じないと見るや、自由労務者は会社側に対する前記馘首反対並に待遇改善の要求を貫徹するため、その場において、ハンガーストライキに入り、同日午後四時頃所長高場及び総務部長上住両名を擁して、隣り事務室に移り、同人等に確約を迫つていた折柄、他方組合側においてこれを機とし、右高場等に対し組合員を解雇される旨の確約をなさしめるため、被告人山口茂樹等組合幹部の指揮のもとに押寄せ、被告人山口茂樹、同竹谷滋、同騎西辰雄、同八木正一等は、約百名の労務者と共に所長高場、総務部長上住両名を取囲み、外数労務者の雑言、罵声の中、或は「共産党政権が近付きつつあるのであるから我々と手を握れ」、或は「我々は中共、ソ連と連絡をとつている状勢判断を間違つてはならない」、或は又「我社がソ連のバネの註文を受けているが、これを作つているのは産別系だけで共産党員だから註文がとれる。我々を首にすると註文がなくなる」等と説き、このような多衆の威力下において、
第一、被告人高橋精一、同伊藤治美は、互にその意図を共通した上、他の自由労務者とともに所長高場及び総務長上住に対し、その意に反して「覚書通りに致します。私の言うことはちよいちよい失言しますから当になりません」と記載した新聞紙に捺印を強要し、被告人竹谷滋、同騎西辰雄、同八木正一は、互にその意図を共通した上、右被告人高橋等自由労務者に同調し、或はこれ等の者に取つて代つて、所長高場及び総務部長上住に対し、前記の新聞紙に捺印を強要し、同日午後十時頃右高場、上住両名がその場を脱出しようとするや、被告人山口茂樹、同竹谷滋同騎西辰雄、同八木正一、同高橋精一、同伊藤治美等は、これを止むべく犯意を共通し、約百名の労務者と共に人垣を作り、或は同人の前に立塞がり、行手を阻止し、或は自由労務者を見殺しにするか、これを解決せぬうちは帰さぬと叫び多衆の威力による強圧を加えて脱出を不能ならしめ、同日午後十時三十分頃、所長高場及び総務部長上住が強圧に堪えかね、対策を構ずべき旨約して、所長室に入り、内側より錠を施したが、その外側には多数の組合員その他の者が詰めよせ太鼓をたたき気勢を挙げ、或は扉をたたき、室内を覗き時間だ早く出ろ等立騒ぎ喧噪の中に推移し、翌二十五日午前零時四十分頃、被告人滝谷〓一、同山口〓、同石川正は、相前後して事務室より所長室に通ずる扉の上部回転窓を排して所長室に各侵入し、被告人山口〓、同石川正両名において所長室のガラス戸を開け放つや、被告人竹谷滋、同騎西辰雄同八木正一は、数十名の組合員、自由労務者とともに、所長高場等の許諾を得ないで同所より侵入し、右高場、上住両名及びその場に居合せた他の課長を取囲み、被告人滝谷〓一は、所長高場、総務部長上住、勤労課長石原喜義、製鋼課長兼松源三、工作課長粕谷仁作、作業部長刈谷忠篤、経理課長平野寬、業務課長坂内〓吉等が囲んでいたテーブルの上に土足のまま上り、同人等に対し、その義足を示し、「おいこら俺の足は会社で怪我をしたのだ、首をきるなら元の足にしろ、この足には鉄の芯が入つている、これで蹴飛ばせば足が折れて終う、もし俺の首をきつたらお前達の足を一本づつ折つてやる」と申向けて脅迫し、被告人竹谷滋、同騎西辰雄、同八木正一等は、或は吉田内閣打倒と民主人民政府樹立の日の近き論じ、所長部課長等に雑言を浴せ、「默つているな」、「眠るな」等怒号し、赤旗を打振り、労働歌を合唱し気勢を挙げ、その間被告人山口茂樹、同高橋精一等と代る高場、上住両名に対し執抛に前記新聞紙に捺印をするよう強要をつづけ、被告人山口〓、同石川正はそれぞれ犯意を共通してこれに同調し、同日午前六時頃に至り、所長高場が機を見て、他の部課長とともに一せに所長室を出るや、被告人高橋精一、同伊藤治美は十四五名の労務者とともに所長高場の後を追い、広田製鋼所事務所裏手において同人を取囲み、紛争を解決しなければ解放しない旨迫り、同日正午頃所長高場をして、新聞紙に「部長の失言を認む」と記載し、これに拇印し手交するの己むなきに至らしめ、この間被告人山口茂樹、同竹谷滋同騎西辰雄、同八木正一、同高橋精一、同伊藤治美は、犯意を共通し他の労務者とともに、入り代り立ち代りして前記事情下に、所長高場を十数時間にわたり、総務部長上住を約八時間にわたり、睡眠を与えず、その身体の自由を拘束して、不法に監禁し、
第二、同月二十七日午前九時頃、会社側が印刷物をバラ撒き会社整理案を発表するや、組合労務者はこれに激昂し、脱れようとした所長高場を取囲み、赤旗を振り、労働歌を合唱して気勢を挙げ、同日午前十一時頃、組合側は会社側の事情協定の申入を一蹴し、一方的に団体交渉に入る旨宣言し、被告人山口茂樹、同竹谷滋は互にその意図を共通しながら他の組合労務者等とともに、所長高場を始め、上住〓雄、刈谷忠篤、石原喜義、平野寬、粕谷仁作、兼松源三、坂内〓吉、安藤由助等、広田製鋼所部、課長を前記事務室に設た用意の席に着かせ、被告人山口茂樹等組合幹部これに対席し、その周囲はスタンド様に、机、椅子等を積重ね、これに組合労務者、その家族や、続続詰めかけた組合外郭団体友誼団体員等が数百名蝟集し、前記高場等九名を取囲み、雑言罵声を浴せ、多衆の威力による強圧を加え、組合員を解雇せざる旨の確約を要求する側ら、所長高場に対し、辞職すべき旨記載方強要し、その間同日午後二時頃、患者同盟会長山中武夫が来り、決議文を朗続するに際し、座つて話をするのは怪しからんと抗議し、前記所長等を立たせ、次で同人等の連絡を不能ならしめるために各個に引離し、その間に労務者が詰入り、同日夜に入り疲労困憊の所長高場をして、「部下を首切り自分のみ所長の地位に留まる気はない」と書面に記載し、被告人山口茂樹にこれを交付するの已むなきに至らしめ、此の間前記情況の下に、所長高場外部課長八名の身体の自由を拘束し数時間にわたり不法に監禁し
たものである。
(証拠説明省略)
(法令の適用)
被告人等の判示所為中、被告人高橋精一、同伊藤治美、同山口茂樹、同竹谷滋、同騎西辰雄、同八木正一、同山口〓同石川正が、高場、上住両名に対し判示第一の捺印を強要した点は刑法第二百二十三条第一項、第五十四条第一項前段、第六十条に、被告人山口茂樹、同竹谷滋、同騎西辰雄、同八木正一、同高橋精一、同伊藤治美が判示第一の高場上住両名を不法に監察した点は、同法第二百二十条第一項、第五十四条第一項前段第、六十条に、被告人滝谷〓一、同山口〓、同石川正、同竹谷滋、同騎西辰雄、同八木正一が判示第一の所長室に侵入した点は、同法第百三十条、第六十条に、被告人滝谷が判示第一の高場外七名を脅迫した点は、同法第二百二十二条第一項、第五十四条第一項前段に、被告人山口茂樹、同竹谷滋が、判示第二の高場に辞職すべき旨記載方強要した点は、同法第二百二十三条第一項、第六十条に同被告人等が、判示第二の高場外八名を不法に監禁した点は、同法第二百二十条第一項、第五十四条第一項前段、第六十条にあたるが、右住居侵入及び脅迫の罪につき各懲役刑を選択し、以上の罪は同法第四十五条前段の併合罪であるから、同法第四十七条本文第十条により、被告人高橋精一、同伊藤治美については重い不法監禁の罪につき定めた刑に、被告人山口茂樹、同竹谷滋については、犯情によりり最も重いと認める判示第二の不法監禁の罪につき定めた刑に、被告人騎西辰雄、同八木正一については、重い不法監禁の罪につき定めた刑に、被告人滝谷〓一については、重い住居侵入の罪につき定めた刑に、被告人山口〓、同石川正については犯情により重いと認める住居侵入の罪につき定めた刑に、それぞれ法定の加重をなした刑期範囲内において、被告人山口茂樹、同竹谷滋を各懲役壱年に、被告人騎西辰雄、同八木正一を各懲役八月に、被告人滝谷〓一、同山口〓、同石川正、同高橋精一、同伊藤治美を各懲役六月に処し、被告人滝谷〓一、同山口〓、同石川正、同高橋精一、同伊藤治美に対しては、諸般の情状刑の執行を猶予することが相当であると認め、同法第二十五条により、この裁判が確定した日より参年間いづれも右刑の執行を猶予し、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項、第百八十二条により、訴訟費用中証人柴田時治、同角田栄一、同鈴木勇三、同中野明、同二瓶金六、同福原一二に支給した分は、被告人高橋精一、同伊藤治美の連帯負担とし、証人星俊美、同森高武雄、同菊地澄雄、同花泉実、同山口勉、同加藤一太郞、同小島寅喜、同松本富夫、同福原勝秋に支給した分は、被告人山口茂樹、同竹谷滋、同騎西辰雄、同八木正一、同滝谷〓一、同山口〓、同石川正の連帯負担とし、その余は被告人等の連帯負担とするものである。
被告人山口茂樹、同竹谷滋、同騎西辰雄、同八木正一、同滝谷〓一、同山口〓、同石川正の主任弁護人は、右被告人等に対する本件公訴は起訴自体において犯罪を構成しない団体交渉権の範囲内の正当の行為であつて、これを刑法の正条に当てはめ処断することは、憲法の認めた団体交渉権を否認するものであり憲法第二十八条に反すると主張し被告人山口〓は、本件行為は労働組合法第一条第二項に定むる正当行為である旨主張し、又被告人竹谷滋、同騎西辰雄同石川正等は各本件行為は正当行為である旨主張するが、右の主張は認定した判示事実により明な通り、いづれもこれを採用しない、何となれば、憲法第二十八条は、いわゆる基本的人権として、勤労者の団結権及び団体交渉その他の団体行動をする権利を保障し、この趣旨の下に労働組合法が右の権利に関する諸規定を置き、同法第一条第二項は、労働組合の正当行為につき刑事上の免責を規定しているが、これ等権利の行使は、常に公共の福祉に反せざるとともに、濫用してはならないのであつてこのことは同時に権利の限界を示すものである。しかるに被告人等の本件行為は判示のようにいづれも右の限界を逸脱し、高場市太郞その他の個人的権利を侵害したものであつて、固より権利行為乃至正当行為、又は労働組合の正当な行為として認容せらるべき筋合のものではないからである。
なお被告人等及び弁護人は、(イ)本件公訴は事実と相違しており、何等かの政治的意図のものになされたものである。(ロ)ロ本件公訴は公訴自体において労働者の団体交渉権の範囲内に属する行為であることが明である。(ハ)ハ本件公訴は階級的彈圧を目的としたものである等その他諸種の理由により、公訴棄却の裁判を求めたが、被告人等については、判示のように各有罪の事実が認められ、右のような主張事実は認められないから公訴棄却の裁判はなさない。
(裁判長裁判官 小林新太郞 裁判官 菅家〓 裁判官 羽染德次)